『ウィキッド ふたりの魔女』

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どんな映画?

「オズの魔法使い」の前日譚としてふたりの魔女の関係を描いた大ヒットミュージカル『ウィキッド』の映画版。『イン・ザ・ハイツ』の映画化で高く評価されたジョン・M・チュウが監督を務める。本作は舞台版1幕に当たる前編。後編は約1年後の公開が予定されている。たまたま香港に行く機会があったので、日本公開に先駆けて鑑賞してきた。

あらすじ

偉大な魔法使いであるオズ大王が統治するオズの国。緑色の肌を持って生まれ父親や周囲から疎まれてきたエルファバは、脚が悪い妹ネッサローズのサポートをするために一緒にシズ大学に入学することになる。同室になったのは、美人で明るいが傲慢なガリンダ。魔法の才能があるとエルファバが校長に贔屓されているのもあり、ふたりはいがみ合うようになる。しかし、ちょっと不良の王子様フィエロが転入してきたことによって状況が変わり……。

完全+αの映画化

2幕ものの舞台を映画にする場合、たいていはランニングタイムを短くしないといけないので楽曲をいくつかカットしたり、ビッグナンバーのダンスパートをなくしたり、ストーリーをちょっと変えたりして処理する。しかし、本作は原作となる舞台の1幕だけを2時間半強かけて映画化しているので、カットする必要がない。舞台の構成そのままであるだけでなく、いくつかの楽曲については演出に工夫を凝らすだけではなく引き延ばされている。それに加えて、舞台版ではサラっとしか説明されない背景をしっかりと描く追加パートまである。舞台版をさらに拡張するという、これまでに見たことがないミュージカル映画になっている。

思いっきり想像の翼を広げた世界観

ミュージカル『ウィキッド』自体が美術や衣裳に凝った作品なのだが、本作はそこからさらに想像の範囲を広げている。シス大学のキャンパス、ガリンダとエルファバの部屋、リトル・マーメイドのようなダンスパーティ会場など、細部まで作り込まれたファンタジックな映像に無条件にウキウキしてしまう。もちろん映画『オズの魔法使い』の世界観をそのまま継承している部分も多々あり、オズの魔法使い好きもウィキッド好きも満足できると保証したい。

完璧なキャスティング

大学のマドンナであるガリンダ(グリンダ)は3枚目キャラ。舞台版はやることなすこと笑いを巻き起こすコミックリリーフだったりするのだが、アリアナ・グランデがその要素を上手く出せるのかが正直少し不安だった。しかし、心配ご無用!十分に笑いをとっていた……というか、笑った。冒頭に見せるソプラノ歌唱もパワフルな声量とまではいかないがしっかりとこなしていたし、憎めないが面倒くさい女の子を愛嬌たっぷりに演じていた。

エルファバ役のシンシア・エリヴォに関しては、パーフェクト以上だといっていいだろう。以前、本作のポスターを見た息子が「このシンデレラみたいな人(アリアナ)より、こっちの緑の人の方が断然美人だと思う」と言っていたのだが、エルファバを演じるシンシア・エリヴォは本当に綺麗!!今まで怒り狂って戦っている役とか、坊主頭で猛ダッシュする役とかしか観たことがなかったので気づかなかったのだが、シンシア・エリヴォって憂いを湛えた絶世の美女なんですね。歌わないシーンではうっとりしてしまい、歌うシーンでは圧倒されてしまいと、完全にシンシアに魅せられっぱなしだった。

フィエロ役のジョナサン・ベイリーはセクシー大爆発。どう見ても大学生には見えないものの、動くだけで色気が溢れ出るようなフィエロで大変によろしい。彼の登場曲「Dancing Through Life」は本作の中でも出色の演出がなされていてとても楽しめた。ネタバレになるので多くは語らないが、フィエロは身体的にも感情的にも色々な意味でとても表現するのが難しいキャラクターだと思うのだが、絶妙なバランスでこなしていた。

マダム・モリブルを演じるミシェル・ヨーはさすがの存在感。ボック役を演じるイーサン・スレイターは異様に上手く、ネッサローズ役のマリッサ・ボーディはイメージピッタリ。

オズの魔法使い役のジェフ・ゴールドブラムも胡散臭いイケおじでバッチリなのだが、後編にある「Wonderful」をどこまで歌いこなせるかがやや不安。

初演から20年以上経ってからの映画化(ややネタバレあり)

物事は一面だけで判断できないという『オズの魔法使い』のテーマをさらに深めた『ウィキッド』は、複雑で真に迫る友情物語であると同時に、情報操作によって大衆を扇動するという権力の暴走を描いた作品でもある。2003年の初演時以上に社会の分断が進み、陰謀論がまことしやかに囁かれるようになり、マスメディアへの不信感が募っている現代において、結果的に当時よりも時代にフィットした作品になってしまっているともいえるだろう。オズの魔法使いたちの行動がファンタジーではすまないリアリティを持ってしまっていて(本来はもっと愚かな人として描かれているはずなのに)、空恐ろしさを感じないでもない。

言い換えると、初めてみたときは「なんてよくできた物語なんだ!」と感じたものが、陰謀論者によるやや幼稚な物語に見えてしまう危険性を孕んでいるといえばいいだろうか。『ウィキッド』で行われているようなことを信じる人が増えすぎていて、あまり新鮮さを感じない人が多いかもしれないなと思う。

それでなくとも、感情の起伏も激しくガ―ッと盛り上がり切って終わる前編(1幕)と、、怒涛の伏線回収が行われる後編(2幕)の公開時期が1年も離れていて観客のテンション保てるのかな?伏線回収のカタルシスをちゃんと与えられるのかな?という懸念があるわけで……今回観た本作が最高に良くできていただけに、後編への期待と同時に不安も膨らんでしまっているのが正直なところ。後編も大満足の出来でありますように!

それにしても、日本版の吹替キャストの発表が待ち遠しいなあ。

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