『DEATH TAKES A HOLIDAY』

ホーム

どんな作品?

アルバート・カゼッラによる戯曲『La morte in vacanza』(1924)に基づき、ウォルター・フェリスが1929年に『Death Takes A Holiday』として英語で戯曲化された作品。近年では、ブラッド・ピット主演で現代を舞台に映画化(リメイク)されたのが記憶に新しい(『ジョー・ブラックをよろしく』)。

ミュージカル版はオフ・ブロードウェイで 2011年6月〜9月に初演、その後 2017年1月〜3月にはオフ・ウエストエンドのチャリングクロス劇場で上演され、2023年には宝塚歌劇団が上演して大きな話題を呼んだ。

あらすじ

第一次世界大戦後のイタリア。公爵の大邸宅に向かう車が大事故を起こしてしまう。乗車していた公爵の一人娘グラツィアは車外に投げ出されたものの、奇跡的に無傷だった。安堵した一行だったが、その夜に死神が公爵を訪ね、2日間の休暇を取るのでその間に自分をもてなすように要請するのだが……。

宝塚イムズが継承されたミュージカル

演出家が宝塚版と同じということで、全体的にとても宝塚的である。煌びやかな衣裳、明るい世界観、基本的に全員が正面を向いて芝居をするオーソドックスなステージング。『Me and My Girl』のような雰囲気で、ちょっとドタバタとした上品な古き良きコメディミュージカルに仕上がっていた。

『ジョー・ブラックをよろしく』は設定を現代に置き換えていて、ピーナッツバターのような小道具も効かせた思いきった脚色だったのだなということを本作を観て知った。とはいえ、死の気配の中で生の輝きに焦点を当てるテーマ性は本作にもしっかりと感じられたし、第一次世界大戦直後ということでより深く人間の愚かさの中にある素晴らしさといった煌めきを見出すことができた。ただ、ラストのまとめ方はかなり雑な気がしたけれど。

小瀧望のポテンシャルと技量に驚愕

死神として登場し、第一声を発した瞬間にギョッとしてしまった。坂本昌行をはじめとして、これまでも旧ジャニーズで上手な人は確かにいた。しかし、多くの場合は及第点/力不足のいずれかに留まっており、「どれだけ頑張ったか」で評価されてきたというのは事実だ。旧ジャニーズというだけでチケットは売れるので、あとは作品として成立させてくれさえすれば御の字……といった風潮があることは否定できない(決して褒められたことではないが)。

しかし、小瀧望の第一声はそれらとは完全に一線を画すものだった。アイドルをやっている若い男性の声ではない。石丸幹二的というか……声楽を学んだミュージカル役者の声だったのだ。もちろん、井上芳雄や石丸幹二に比べればややピッチは甘いのだが、そんなものは誤差の範囲。深みがあって伸びやかな大人の男性の歌声にしばらく呆然としてしまった。楽曲自体もかなり難しそうなのに、包み込むように余裕をもって歌いきったのだ。にわかには信じがたい。

人間になってからは完璧なプリンス

死神から人間に変わってからは、シュッとした長身を身のこなしで完璧なプリンスと化していた。私はかなり遠い席だったので顔までは観えなかったのだが、遠目にも非現実的なほどに麗しい佇まいだったので近くで見たらさらにであろう。おそらく、宝塚版のイメージにかなり近いサーキ王子像だったのではないだろうか。

私が観た回のヒロインは美園さくら。彼女の演技はちょっとブリっ子すぎるきらいがあったのと(セリフ回しの息継ぎが気になる)、そもそもの役どころがちょっと浅はかなところがあって魅力を感じにくいなという印象だったのだが、サーキとのデュエットは素晴らしかった。正直、声楽科出身以外のミュージカル俳優(男性)であんな風にデュエットを聴かせる人は初めてだと思う。

兎にも角にも、小瀧望に大いに驚かされた舞台だった。テレビで歌っているのを見る限り、特別に歌が上手という印象もなかったんだけど、どういうこと?なんであんなに上手いんですか?これからもミュージカルに出続けてほしいし、今まで彼を舞台で観てこなかったのが非常に悔やまれる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました